大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1873号 判決

本籍

愛知県丹羽郡古知野町大字両高屋字千丸五八番地の一

住居

同県同郡同町大字両高屋字北本郷二六番戸

軽金属鋳物工

櫻井武夫

大正一四年三月三一日生

本籍並住居

愛知県丹羽郡古知野町大字山尻字本丸三七番地

農業兼保険外交員

兼松正陸

大正一三年一月六日生

右櫻井に対する放火窃盗、賍物故買、兼松に対する放火窃盗各被告事件について昭和二五年八月二五日名古屋高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

各被告人の上告趣意について。

所論は、何れも事実誤認又は量刑不当の主張に帰し法律審に対する適法な上告理由と認め難い。

被告人両名弁護人小玉治行、同河村範男の上告趣意について。

第一点 所論は、原判決において認定した被告人三名が判示近藤清男の長男隆義外二名が住居に使用していた判示木造トタン葺建物並びにこれに隣接する右清男方住家に延焼することを認識しながら判示積藁に放火することを共謀したとの点に対する証拠はないと主張するのである。しかし、原判決に掲けている証拠を綜合すれば、前記事実を原審が認定したことは当裁判所においても首肯し得るところである。なお建物の庇下に堆積されている藁に放火すればその建物及びこれに隣接する住家に延焼する危険があることは常識上認められる事柄であるから、特に所論滝義雄の供述のようなものがない場合でも、各被告人に建物に延焼の認識があつたものと認め得られるのである。論旨は、それ故に採るを得ない。

第二点 所論は、原判決が互に相矛盾する証拠を綜合して放火の共謀を認定したのは採証の法則に反すると主張するのであるが、証拠にはおのずから強弱、直接間接の別があるから、綜合する証拠の一部に矛盾するがごとき感を呈する部分があるとしても、本件の場合のごとく全体として事実の認定を肯認することができる限り採証の法則に反する違法を認めることはできない。論旨は採るを得ない。

よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

検察官 岡本梅次郎関与

(裁判長裁判官 眞野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例